Tokyo diary

本と映画の記録です

【本】ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか-あるITリーダーの冒険-

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海外版のV字回復の経営

いやー久々にビジネス書界隈の分野のヒット作かもしれません、これは。ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか?私自身は自他ともに認めるビジネスサイドの人間ですが(むしろビジネスの人間なのかさえも怪しいが)、妻がIT人材採用人事をしている関係で、この本がうちにあり手に取りました。設定は主人公ジム•バートンがある会社の再建を託されてやってきた新CEOカール•ウィリアムにより、突如として新CIO( Chief Information Officer)に任命されるところから始まります。バートンはもともと、ビジネスサイドの中核事業の責任者をしていた切れ者ですが、ITの経験はまったくなし。それがいきなりCIOです。青天の霹靂の人事に戸惑いながらも、持ち前のリーダーシップを発揮しながら、幾つかの危機を乗り越え、バートンがCIOとして成長していく物語仕立ての本になってます。まさにこれ、海外版『V字回復の経営』(ご存知ない方は是非。ビジネスというよりどちらかというと文学寄りの人種の僕からしても面白かったビジネス小説)。

 

知恵は語ることができない、少なくとも完全には

エピローグで明かされるこの言葉。目に留まりました。なぜ本書が、小説仕立てのアプローチをとったのか?という問いへの解です。曰く、

ITマネジメントの枠組みは重要である。同時に、枠組みに意味を持たせる実践的なコンテキストを維持する必要がある。これらの両方を我々は信じており、その結果、本書で示した通り、IVK社の物語という通常ではないアプローチをとることにした

とのこと。なるほど、知恵を抽象化し、フレーム化することは大切であるが、そのことで失われてしまう現場感を著者は忘れてはいない。ビジネスの現場に活きる書にしたいのに、現場感を離れてしまっては本末転倒であるとの信念なのでしょう。そこから本書のような物語的アプローチが生まれました。読書はジム•.バートンがCIOとして直面する数々の戸惑いや困難を追体験しながら、自分が同じ立場であればと問いかけられます。同時に要所要所でまとめのフレーム化が物語の躍動感を損なわないかたちで挿入され、リフレクションを読者に起こさせる仕組みになっている。いや実に見事な仕立てでございました。

 

完成されたスタッフワークの教義

物語の本論とはそれた章末コラムにこのタイトルがありました。仕事柄、関心を惹かれたのですが、このたった3pのコラムがまた素晴らしくて。章末の一文は以下のように始まります。

完成されたスタッフワークとは、スタッフメンバーが問題の研究と解決策を提示することであり、指揮官の側にやるべきこととして残っているのは、その完成されたアクションを採用するかしないかを指示することだけ、という仕事のことである。

ぐさーーっと刺さりますよ、スタッフ1年目の私としては。そう、意思決定のための解決策を、深くかつシンプルな問題の研究•洞察とともに提示するだけなのです。私の(つまりスタッフの)仕事は。こうした仕事により可能になることは以下の2点。

①指揮官は、生煮えのアイデア、膨大なメモ、未熟な口頭説明、から開放される

②売り込める本当のアイデアを持っているスタッフメンバーは、もっと仕事を見つけ易くなる

はい。ぐうの音も出ません。いかに自分が日々、上司に生煮えのアイデアや未熟な口頭説明の山を投げつけているかと思うと、がっかりします。いやでもこの3pだけでもこの本、読む価値があった。ITマネジメントと銘打ちますが、バートンの役職がCIOだけに、ビジネス一般におけるリーダーシップのあり方や、ボスとの関係のあり方など、幅広いトピックがカバーされた良書だと思いました。

 

ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか -あるITリーダーの冒険

ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか -あるITリーダーの冒険