Tokyo diary

本と映画の記録です

【本】なぜ、人類社会は大陸ごとに異なる経路で発展したのか/銃•病原菌•鉄(上)

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本書の主題は、タイトルにも記した「なぜ、人類社会は大陸ごとに異なる経路で発展したのか?」。書名にもなっている「銃•病原菌•鉄」が、その問いの直接の要因として鍵になっているのだが、その大元にある究極の要因は何なのか?ということを、探る本です。人類史のジャンルですかね。下巻はこれからですが、上巻だけでも400pあるのでいったんレビュー。

 

歴史は、異なる人々によって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない

 

と、プロローグで著者自身がご丁寧に「分厚い著書をたったの一文で要約(p45)」してくれています。著書のジャレド•ダイアモンドはボストン生まれのアメリカ人学者ですが、30年以上、ニューギニアでフィールドワークを続けてこられました。そこで出会った聡明なニューギニア人から着想を経て、なぜニューギニアとアメリカをはじめとする先進国とに、現在の発展段階で差異が生じだのだろうか?なぜ、その逆は起こらなかったのだろうか?と問いを進めます。全19章にわたる長編ですが、主題が骨太で、刺激的な問いであり、かつ著者自身が問いを立てながら丁寧に推論をしていくので、迷うことはありません。

 

東西に伸びるユーラシア大陸と南北に伸びるアフリカ/アメリカ大陸が生み出した人類の発展における決定的な差異

 

著者の述べる究極の要因は、ここです。人類は、約1万1000年前を皮切りに、順次、移動/狩猟採集生活から、定住/農耕生活に舵を切りますが、この変化は圧倒的にユーラシア大陸が早い。西アフリカ/エチオピアや、中米/合宿国東部/アンデスorアマゾン川流域でも、定住/農耕生活の基礎となる食料生産が独自に始まるのですが、近隣に波及しませんでした。他方で、肥沃三日月地帯と呼ばれるメソポタミア地域や中国の食料生産は、驚くほど早く、東西に広く波及したという事実があります。東西に広がるユーラシア大陸は、南北に広がるアフリカ/アメリカ大陸に比して、気候が似ていることから、同じ作物が同じ方法で生産しやすかったのでしょう。

 

食料生産が始まれば、定住/ 農耕生活が安定し、生産性が高まり、人口が稠密になり、余剰人員が生まれ、専門職分化が進む中で技術が高まるとともに、階級社会が生まれ、やがて多くの人員を抱合する国家、帝国が生まれ、、とシステムシンキングよろしく、人類は発展の歴史を辿ることができます。移動/狩猟採集生活でも、狩猟採集に関する技術の高まりはあるものの、生産性の面で定住/農耕生活の10分の1から、100分の1程度にしか及ばず、余剰人員を抱えるほどの大集団を形成できないため、上記の変化は望めず、勝ち目がないんですね。

 

 下巻では、文字や技術、社会の発展の歴史をたどりつつ、本題を深めていくようです。

 

ひとりの人間としてなにを学ぶことができるか

 

本書の論旨は明快で、論拠もあり、個人的には著者に同意しながら読み進めてはいるのですが、このように大陸の形状が人類の発展の差異となっただとか、そのレンジが数千年の歴史を扱うほど長いものになったりだとかしたとき、さて人生100年しかないしがない個人が、この地球上に生を受けた意味ってなんなのだろう?抗いがたい大波がいまもまた世界を動かす中において、いち個人が何をなすことができうるだろうと、つい考えてしまいます。それだけ壮大なテーマを本書は扱っているということなのか。でも、とても面白いです。

 

 

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)