Tokyo diary

本と映画の記録です

【本】未必のマクベス

2019年7冊目。再読。小説は今年に入って初。

 

600ページを超える長編小説ですが、平日の夜、脳が疲れて頭が回らなくなった状態で風呂に入っている時などに少しずつ読み進めて約1ヶ月で再読完了となりました。小説はこのくらい時間をかけて読むのがよいなと思いました。その期間の長さの分だけ、人生の中のデュアルワールドというのか、別の世界を生きていられることになるから。現実世界がどうあれ。

とても好きな小説です。

 

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

 

 

キューバリブレと中文

香港と澳門マカオ)を中心の舞台とするこの小説の醸し出す空気感(atmosphere )に欠かせないのは、Jプロトコル香港に勤務する主人公•中井優一がバーに入るたびに好んで飲むキューバリブレ(ダイエットコークが望ましい)と、会話の中にときどき挟み込む中文(中国語)です。

キューバリブレ。有り体に言えばラムコークでしょうか。このカクテルは〈キューバの自由〉を意味するようで、社会主義国家のキューバにおける自由のカクテルとは皮肉なものだと、筆者は中井に語らせています。

それから中文。余韻の残る会話に挟まれている場面を引用すると、

旅を続ける力って、なんだろう?

 

疲れ果てて、たとえ目的地にたどり着けなくても、旅を始めた場所に戻ること。 

 

なるほど。再見、コーデリア

再見には〈ゾイギン〉とルビが振られていることから、北京標準語ではなくここでの中文は香港語であることがわかります。意味は漢字の通り〈またね〉

遠い異国の地、キューバの自由を想いながら、香港の街で生きる中井優一の姿に、自分を重ね合わせることができるならば、この小説の世界に入り込んで、旅を始めることができるでしょう。

僕は、この本を読んでいる間、ずっとキューバリブレが飲みたかった。

 

マクベスをなぞる物語

本書のタイトルにあるマクベスとは、17世紀にシェイクスピアによって書かれた、「ハムレット」「オセロ」「リア王」に並ぶ4大悲劇の戯曲の1つです。11世紀に実在したスコットランドマクベスがモデルになっています。

本書は、中井優一がマクベスの戯曲に沿って生きていることに気づくことから物語が動き始めます。戯曲マクベスの終わり方を思うと、自分も愛する人も幸せな終わりを迎えることにはならないことは分かってしまう。そんな戯曲の影を背負いながら、なんとか自分自身の人生を手に入れようとする中井優一の物語が、本書です。「あなたは、王になって、旅に出なくてはならない」と言われる中井の旅の行く末を、追体験してください。