Tokyo diary

本と映画の記録です

【本】今こそ「奨学金」の本当の話をしよう-貧困の連鎖を断ち切る「教育とお金」の話-

2019年6冊目。

 

著者は本山勝寛氏。東大工学部(学士)→ハーバード教育大学院(修士)と歩んだ超エリートだが、家庭は苦しく、給付型奨学金や授業料減免制度などを活用した進学体験を持つ方です。本書の主張は、その経験がベースとなっており、これを補強する各種のデータが時折登場するという構造。ライトに読めます。1時間もあれば。副題にある「貧困の連鎖を断ち切る「教育とお金」の話」はちょっと大げさかな。貧困の連鎖を断ち切ると言い切るまでの、そこまで深い課題設定と解決策ではないかもです。基本的には、奨学金=悪ととらえられがちなイメージを、そんなことないよ、と主張している本です。 

 

いくつか挙げられている奨学金の誤解についての著者の主張をみていきます。

・(誤解1)利子が高くサラ金よりひどい

→(著者の主張)そんなことはない。奨学金最大手(という言葉遣いは正しくないかもしれないが)の日本学生支援機構の利子はあくまで「最大3%」。メディアなどでセンセーショナルに3%が取り上げられるが、そもそもサラ金なんかは15%とかザラにあるんだから全然マシ。それに、最大3%なのであって低金利の今の時代は、利子は0.01%(変動利率)、0.23%(固定利率)だよ

・(誤解2)延滞者が増えて奨学金地獄の世の中になっている

→(著者の主張)ものごとの一側面しか見ていない。確かに延滞者の実数は増えているが、そもそも大学生の数が大幅に増えており、かつ増えた分は学費の高い私立大学生な訳で、そもそもの奨学金貸与者(給付ではなく貸与)が増えている訳だから、延滞者実数増もむべなるかな。それに、貸与者全体に占める延滞者比率は下がっているのである(詳細な数字の主張は本書をご覧ください)

 

と、いう具合に悪玉奨学金(と言われる)制度の誤解払拭をする主張を展開し、世の中で言われているほど、奨学金は悪い制度ではないと仰ります(個人的にはそこまで世の中に奨学金悪玉論が展開されていると思っていないのだが)。とはいえ、僕自身も、在学時代4年間、日本学生支援機構の貸与型奨学金(有利子)を月10万・合計480万借りていました。確かに社会人になってから利子も含めた返済の負担はありましたが、おかげさまで学生時代は自由に学ばせていただきました。サラ金で借りていれば当然、利子はケタ違いだったでしょうから、それに比べれば日本学生支援機構の利子は良心的だったと僕は思っています。

 

ただし、著者自身も現在の日本の奨学金のほとんどが貸与型(返済が必要。無利子型と有利子型にさらに分岐する)に傾斜しており、給付型(返済が不要)が少ない点は課題として挙げていました。日本は、国際的にみても高等教育の家計負担が多い国です(一方、初等・中等教育の家計負担は世界標準よりも低い)。この事実も挙げたうえで、著者は給付型奨学金ないし、下記に挙げる授業料減免制度の拡大を主張されていました。

 

次に、意外と知られていない「大学授業料減免制度」に話が移ります。これは実質的な給付型奨学金(返済不要)であるにもかかわらず、報道等が少なく認知が行き届いていないと課題設定をしています。制度としては、

 

  • 国公立大学と一部の私立大学で、授業料の全額または半額になる制度
  • 具体的には、国公立大学の授業料は年間約53.8万(2017年)だから、4年間で215万の給付型奨学金と同じ価値のある制度である
  • 要件は「成績」と「家庭の経済状況」だが、成績は厳しい基準ではないため、実質的には「家庭の経済状況」がキー
  • その「家庭の経済状況」だが、そこまでハードルは高くない
  • 具体的には、ざっくり世帯収入500万~700万(※世帯数によって式は異なる)

と、いう概要です。これは確かに知っておいて損はないですね。著者自身もこの制度を活用して、東大在学時代の授業料を賄ったそうです。

 

あとは海外の大学の比較などが取り上げられますが、ここでは割愛。そんな感じの本です。