Tokyo diary

本と映画の記録です

【本】知性は死なない-平成の鬱をこえて-

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新進気鋭の歴史学者が鬱の経験を経て新たな境地に 

著者は与那覇潤氏。問題作?の『中国化する日本』の著者です。日本の歴史を、江戸時代的鎖国体制と中国化との揺り戻しとで捉える大胆な切り口が物議を醸したと思われます。そんな与那覇氏がここ数年、うつ病を患い、大学の教授職を退職していたことをネットニュースで知り、驚いて調べているうちに行き当たったのがこの本でした。いまはだいぶ回復されているそうですが、ひどい時期は図書推薦文の1行の言葉さえも書けなかったようです。あれだけ勢いのある若手学者だった氏をこのような状態にしてしまう環境ってどれほどの過酷さだったのだろうかと思ってしまいます。ただ、本書では氏の知性と天性の?文筆力は十分に発揮されており、読者を引き込む魅力は健在と感じることができました。

 

何の本かと聞かれると答えるのが難しい

 

目次を辿ってみますと、

  • わたしが病気になるまで
  • 「うつ」に関する10の誤解
  • 躁うつ病とはどんな病気か
  • 反知性主義とのつきあいかた
  • 知性が崩れゆく世界で
  • 病気からみつけた生きかた
  • 知性とは旅のしかた

と、なっており、氏がうつ病となって大学を休職するに至った経緯や、うつ病についての解説を挟みつつ、ビッグヒストリーを描く歴史学者ならではの大きな俯瞰図をもって、平成という時代を切り取り、語るという構成です。エッセイとも言えなくもない。かなり珍しい章立てです。ただ、僕は文体を楽しみました。挑戦的、扇動的だった『中国化する日本』に比べ、本書の氏の文体は所々の逡巡や葛藤のプロセスの中でことばを紡ぎ出していることが見てとれました。以前の著者を読んだことがある人であれば、こうした変化を感じることができるでしょう。おそらく、病気を経て氏の中で変化したものがあるはずです。いろいろな見方ができます。A or Bの分かりやすい論法が濁り、切れ味がなくなったと見る見方もあれば、以前のような単純化した思考ではこぼれ落ちていたものが拾え、著者の思考の柔軟性が広がったと見る見方もあるでしょう。僕は後者の立場です。何でもかんでも二分論で白黒つけていく世界が好ましいとは思えないから。迷いの過程をさらけ出すことから、人はその人間らしさが伝わり、信頼にたる人であると他者に伝えることができると思っています。その意味でこの本は、与那覇氏と読者との人間的な距離を縮めることに役立つということができるかもしれないと思いました。

 

でも『中国化する日本』も読み直してみようかな。

 

気づけば2ヶ月ぶりの読者録。実際、読者そのものも2ヶ月ぶりでした。期末、期初の仕事の多忙と、余暇を英語学習にかなり降ってることがあり、やはりそうすると本読んだり映画見たりする時間が失われていると、こうして気付きます。時間は有限だから難しいです。時間の使い方。

 

知性は死なない 平成の鬱をこえて

知性は死なない 平成の鬱をこえて