Tokyo diary

本と映画の記録です

【本】野中広務 差別と権力

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政敵たちを震え上がらせる恐ろしさと、弱者への限りなく優しい眼差しを併せ持った政治家•野中広務

つい先日、野中広務氏が亡くなられました。久しぶりにお名前お聞きしたなと思って。子どもの頃、よくテレビでお見かけしたけれど。それで少し調べていたらこの本に出会いました。著書は魚住昭氏。本書の最後の佐藤優氏と魚住氏との対談によると、魚住氏は本書の前に、『沈黙のファイル』、『渡邊恒雄 メディアと権力』という大きな作品を残されてきた方のようです。本書、『野中広務 差別と権力』を読むと、魚住氏の丁寧な仕事が分かりまして、ほか2冊にも関心が湧きました。心あるジャーナリズムとは、対象と自らとの距離の置き方について、常に逡巡するあり方のことなのかもしれないと思いました。本書にもそれを感じます。近すぎると見えなくなる。遠すぎると何もかけない。その狭間なのかなと。

 

利害の異なる集団の境界線上に身を置く政治スタンス

野中氏の仕事は、自民党政治家でありながら、1990年代に、自社さ連立政権実現にあたって社会党と折衝にあたったり、自自公連立政権樹立にあたって公明党と折り合いをつけたりと、境界線上に身を置くスタンスが際立ちます。その政治身上を形成した背景に、野中氏が被差別部落出身者であることは無縁とは言えないのではないだろうかということが本書に通底されたメッセージだと思います。被差別部落出身者として自身が経験した社会からの冷たい視線を忘れないでいながら、そこだけに自身の戦いどころを定めず、大衆の前では、被差別部落の解放運動を、自助努力のない要望•要求を続けているだけと批判するスタンスも野中氏にはありました。そうした境界線上に存在感を置いたのが野中氏を権力の中枢まで上がらせたものでもあり、また限界でもあったということのようです。つまり、自分自身で、大きな国家構想を抱き、政局をつくりにいくことはできなかったと。

 

政治ってやっぱり複雑やな...と思いつつ、これでも人間社会の縮図だから政治に限った話じゃないんだろな。自分自身が、調停者として力を発揮するのか、自ら旗を立てて流れをつくる形で力を発揮するのか。自分自身をわかってることって大事やな。

 

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)