Tokyo diary

本と映画の記録です

【本】東大生が知っている!努力を結果に結びつける17のルール

2019年5冊目。

著者は東大・教育学部の大先輩の清水章弘さん。

(ふつう「大先輩」は年齢の離れた方に使いますが、清水さんはわずか1歳しか僕と年齢は違いません。しかしながら、その人格や世の中に残されてきた価値などを鑑みると大先輩とお呼びするのがふさわしいのです)

たまたま、本当に貴重すぎるご縁でしかないのですが、昨日じっくりとお話する機会をいただくことができ、その中でこの本を読んでもらえればとご紹介いただけたので、スピード命と思い、購入し、読んでみました。

 

東大生が知っている! 努力を結果に結びつける17のルール

東大生が知っている! 努力を結果に結びつける17のルール

 

大事だと思ったことは、まずやってみる。すぐやってみる。

と、いうメッセージが刺さりました。

と、同時に、シンプルだけどこれを貫くには、自らの中に確固とした価値軸がないと無理だとも痛感します。いい大人になってくると、当然ながら子どものころよりたくさんの方とお付き合いがあります。仕事も家庭もあります。無為に時間を過ごしていると、1日も1年もあっという間に過ぎます。そんな中で、価値軸もなにもなく、すべてを直観に任せてまずやってみる、すぐやってみる、なんてことをしていたら、24時間では時間は収まりません。それどころか、いま、ここにある大切なものを大切にできないことも出てきてしまいそうです。だからと言って、いまあるものに汲々として一歩踏み出す努力を行わないのでは、自分はいつまでたってもいまの自分のまま・・・。そうです、なので、大事だと思うことを、自分の価値軸を持って、何を言われようが大事なのだと信じぬけることが、本当に大事なのだと。このメッセージからはそういったことを学びました。僕は少なくとも、この短い人生を「教育」に捧げて生きていきたいとは決めています。そして2019年においては、「教育」の第一人者にとにかくお会いするのだと。そしてまた、教育の先端のトピックについては、本なりさまざまな情報なりからまなぶのだと。これを決めて動いていきたいと思っています。

凡事徹底の凄味

ところでこの著書の清水さんは、学生時代に「プラスティー」という塾を起業され、そこから今に至るまで10年以上も教育業界のトップランナーとして走り続けてこられている方です。そして昨日お会いした時も、しきりに仰っていたのが「凡事徹底」です。むやみやたらと新しいことを広げたり、いまあるもの、いま大切にしなければならないことを差し置くようなことは、しない。そういう清水さんご自身の思想が、本書を読むと、より鮮明に、立体的に見えてきました。それと同時に、このシンプルな思想の実践を続けることがどれほど難しく、また価値のあることなのかを考えずにはいられません。本書の中では、起業して数年経った頃、仕事も増えてきて、社外の方との会食が多くなり、社内のコミュニケーションが不十分になってしまったエピソードが出てきます。それに気づいてからの1年は、社外の会食を原則としてお断りして、多くの時間を社員と過ごすようになったと書かれてあります。経営者として、ふと立ち止まって考えられた時に、まず第一に大切にすべきは「社員」だと、思われたのかもしれません。しかし、そう気づいてもここまで徹底した行動をとることができるところが清水さんの強さなのだと思います。その一方で、セレンデピティの大切さも説いておられる。この辺りのバランス感もやはり、上述の価値軸の強固さに裏打ちされたものであるのだろうと思わずにはいられませんでした。

 

あっという間の読書体験。30分~1時間あれば一気に読めますが、学ぶべきものは大きい本だと思いました。

 

【映画】500ページの夢の束

2019年2作目。

目黒シネマで鑑賞。竹中直人とか前田敦子とか有名人のサインが多くて驚きました。

f:id:koheishiozaki39:20190113152040j:plain

主演はダコタ・ファニング。子役時代に有名な役者だったようですが、映画素人の僕は知りませんでした。自閉症で癇癪持ちの主人公を演じます。なかなか難題の演技だったのでは。しかし、主人公のウェンディが嬉しそうにするときの表情がとてもよかったです。

 

スター・トレック』が大好きなウェンディは、自身で描いた、500ページにわたる脚本コンテンツへの応募作品を携え、締切りに間に合うよう、一人でロサンゼルスまでの旅に出ます。

しかし、自閉症の彼女は、毎朝定められた日課を唱えることからすべてを始めて生きてきたんです。朝起きる。ベッドメイクをする。顔を洗ってシャワーをする。曜日によって着る服の色は同じ。仕事に出かけるときのバス停は一つ。大通りの信号は渡らない。帰宅したら勉強、TV・・・。そんなルーティンを想いひとつで打ち破る。彼女の決意を支える爽快な音楽もこの映画の魅力の一つです。

 

ルーティンを破って、ボーダーを超えていく。

その象徴として、どんな状況であっても(under any circumstances)赤信号の交差点はわたってはいけないと学んでいるウェンディが、旅に出るときに赤信号を強い決意で超えていくシーンがよいです。安心・安全の場所からの越境は誰もが勇気を必要とします。そして越境してからも、苦労はあるんです。だけど、強い意志があれば、大切なものをつかみとれるんだという希望を教えてくれる映画なのでした。

 

あと、ウェンディに同行するチワワがかわいく、かわいいだけではなくとてもいい味を出している映画でもありました。文句なしの4.0超です。

 

filmarks.com

【本】これからの日本、これからの教育

2019年4冊目。

 

著者は元文部科学省官僚の前川喜平氏と寺脇研氏。

前川氏に関しては、加計学園の問題を巡って連日、方々からの報道があったことが記憶に新しいです。本書でもこれに関する見解が語られますが、本記事では深入りは避けたいと思います。

寺脇氏は、在官時代にいわゆる「ゆとり教育」を推進。その後の国際学力調査・PISAなどでの日本の学力順位の低下と関連付けられ、何かと批判を受けたという印象がある方ではないかと思います。

 

最初に申し上げておくべきかと思うのは、本書は比較的ハイコンテクストな書物です。文科省(旧文部省)の歴史、お二人の在任時代に携わったさまざまな教育改革、件の加計学園問題など多岐にわたる話題の進行はすべてお二人の対談形式で進行するため、各トピックに関する順を追った説明はありません。ある程度の前提知識が求められる類の本だと言えますね。

 

次に、お二人に共有されている教育に対する哲学について。

一言でいえばそれは「学習者中心主義」です。

弱肉強食の市場競争に子どもたちをさらさず、一人ひとりの学ぶ権利を保障すること。それが教育行政本来の使命ではないか。寺脇さんも、私も、そう考えている(冒頭の前川氏の語りより)

本書では、このような市場原理主義的視点に対して、あるべき教育の在り方が語られるとともに、

文部省の中でも、当初、「生涯学習?ケッ」みたいな反応が多かった。高等教育局とか初等中等教育局が典型ですが、学校教育至上主義が支配的で、生涯学習が打ち出した学習至上主義を理解できる人は、今でもそれほどいないんじゃないかな(寺脇・P44)

と、あるように、学校教育中心主義に対置して「生涯学習」の観点に立った教育観が語られています。

一方、好き勝手に学びたいことを学んでいるのが良いとしているのではなく、小渕元総理が大切にして施政方針演説にも入れた「個と公」というキーワードや、鳩山元総理が提唱した「新しい公」という概念を引きながら、個人の尊厳や意思なる学習の積み重ねの先に、社会にとっての善なる思想・行動をとることのできる人物が育成していきたいというのが、お二人の理想とする教育観なのではないかと感じました。

 

あえて、批判的な観点からこの教育観についてのコメントをしますが、特に近年の鳩山政権下での「新しい公」という概念については、理想の聞こえはよいけれども、当時の未熟な政権運営普天間飛行場問題が記憶に新しい)への記憶が相まって、現実的な諸問題に対応できないまま掲げる理想として、国民の支持・理解の広がりは限定的なものにとどまったという印象があります。

 

そしてそうこうしているうちに、日本を取り巻く環境は大きく変化してきました。

習近平政権下の中国の強大化、北朝鮮の核による挑発、アメリカ・トランプ政権の誕生など、国際環境の脅威と不確実性が高まるとともに、国内に目を向けても、2025年には団塊の世代後期高齢者の仲間入りをするなど、待ったなしの少子高齢化問題への対応などが喫緊の課題として立ちはだかり、目の前の現実的な諸問題に対応できる人材育成へのニーズが産業界を中心に叫ばれ始めるなか、ついに経済産業省が主導する教育プロジェクト「未来の教室」が立ち上がるまでに至っています。

www.learning-innovation.go.jp

 

「未来の教室」では、目指す姿のラフスケッチとして以下の10点が掲げられました。

①幼児期から「50センチ革命×越境×試行錯誤」を始める
②誰もが、どんな環境でも、「ワクワク」(遊び、不思議、社会課題、一流、先端)に出会える
③学習者が「自分に最適な、世界水準のプログラム」と「自分に合う先生」を幅広く選べる
④探究プロジェクト(STEAM(S))で文理融合の知を使い、社会課題や身近な課題の解決を試行錯誤する
⑤常識・ルール・通説・教科書の記述等への「挑戦」を、(失敗も含めて)「学び」と呼ぶようになる
⑥教科学習は個別最適化され、「もっと短時間で効果的な学び方」が可能になる
⑦「学力」「教科」「学年」「時間数」「単位」「卒業」等の概念は希釈化され、学びの自由度が増す
⑧「先生」の役割は多様化する(教える先生、教えずに「思考の補助線」を引く先生、寄り添う先生)
⑨EdTechが「教室を科学」し、教室は「学びの生産性」をカイゼンするClass Labになる
⑩社会とシームレスな「小さな学校」に(民間教育・先端研究・企業/NPOと協働、企業CSR/CSVが集中)

 

僕自身は、この「未来の教室」の示す構想に非常にシンパシーを覚えるのですが、本書ではこうした動きへの直接的な言及はありませんでした。文科省出身の前川氏・寺脇氏からみたときには、こうした経産省の動きは、どのように映るのだろうと思います。

 

何が言いたいかというと、前川氏や寺脇氏の掲げる教育観、特に「学習者中心主義」という点については、かなりの共感を持つことができるのですが、一人ひとりを大切に教育しましょうというきれいな標語を掲げて終わらせずに、具体的にその世界をどのように実現していくのか?「新しい公」・「個と公」の世界観にどのように近づけていくのか?についての、迫力ある議論をもう一段見てみたかったなという思いはあります。

すでに退官された個人のお二人にそれを求めるのは酷かもしれないですが、経産省から教育改革への提言が上がってくる状況のなかで、長年・教育行政の中心に位置してきた文部科学省からも、「未来の教室」ばりの教育提言が出てきて、いい意味で教育の理想や具体的な実現の道筋について、文科省経産省が意見を戦わせあうような形で日本の教育がアップデートされていくといいなと思いました。

 

 

 

【本】新装版 個を活かす企業-自己変革を続ける組織の条件-

2019年3冊目。

今年は組織論の本も挑戦していきたい。

2007年の著書でありGAFA以前の成功企業がモデルですが学びは多いです。 

 

【新装版】個を活かす企業

【新装版】個を活かす企業

 

 

キーセンテンスベースで要約すると、

  • 個人の能力に対する信頼が組織運営のすべてである
  • 「個を活かす企業」のコンセプトの核心には、「企業は個人の異質性、果ては奇抜性までをも最大限に利用しなくてはならない」ということがある
  • そのためには、「服従・契約・コントロール・制約」ではなく、「ストレッチ・規律・信頼・サポート」による行動環境を作り出していく必要がある
  • 行動のエネルギー源となる「ストレッチ」と、行動を期限のある行動に変えていく「規律」の間の緊張感が大事(一見、両社は対立概念に見える)。同様に、「信頼」があるから「サポート」を考える、などのように信頼・サポートの組み合わせが大事
  • リーダーが問うべきは、①問題は何か?②どのように解決しようとしているのか?③私ができる支援はなにか?
  • 学習とは心の枠組みであり、日常のことである(花王元社長・丸田芳郎)
  • 重要なスキルは、学ぶことができるが、教えることはできない
  • 企業は価値を創造する社会の制度であるという哲学が、個を活かす企業の根底にある

こんなところでしょうか。ハードカバー400p弱の比較的重厚な部類に入る本ですので、不十分だとは思いますが。

 

これを読んで今後特に考えていきたいと思ったのは、「ストレッチ」と「規律」の緊張関係についてです。このことに関しては以下のような記述も見られました。

 

  • 個人の自発性を引き出すには、自分が関与していることについては「当事者意識を持つ」ように仕向ける。その一方で、強い自己規律も必要である。これは、現場の自発性を企業の全社的方向に合わせ、あちこちに散らばっている起業家精神が混沌とした状態に陥るのを防ぐためである。自己規律は個人が持っている行動規準のことであり、上から課せられる管理はことなるものである

 

自己規律は服従とは異なるポジティブな概念として本書では語られており、「明確な基準」「フィードバック・サイクルの短縮」「一貫性のある制裁」が自己規律を組織に根付かせる上でのカギだとされていました。

非常に難しいところではありますが、本書の学びをもとに実践していきたいと思いました。

 

もう一つ、学習の概念を

学習とは心の枠組みであり、日常のことである

として花王の元社長が語っておられます。

これ、ユーミンが紅白でうたった『目にうつるすべてのものはメッセージ』と同じことを言っていますね(!)。

学習とは、学習者が対象からなにかを学び取ろうとした瞬間に発動されるという思想。

これは、自分自身を学び手としてとらえるときには、忘れてはならない思想だと思いました。(一方、教え手(教育者/本書ではリーダー)の立場に立つときには、学びは学び手が学ぼうとしない限りは始まらないとなると、これをどう仕掛けるんだとなってきて本当に難しい・・・)。

 

ともあれ学び多き本でございました。

【映画】日の名残り

2019年1作目。

カズオ・イシグロの小説の映画版。

 

f:id:koheishiozaki39:20190104164253j:plain

 

1920~1930年代に、英国の名門紳士ダーリントン卿に仕えた執事・スティーブンソン氏が、第二次大戦後になって、アメリカ人の新たな主人に許可をもらって、当時ともに卿に仕え、多くの時間をともに過ごした女性使用人・ミスケントンに会いにいく旅に出て、往時の日々を思い出しながら、自らが命をささげてきた執事としての日々を想う、静かな美しさを感じることができる映画です。

 

終盤に

人生は夕暮れ時が美しい。

 

と、いうセリフが出てきます。

いまはまだ夕暮れとして人生を捉えられませんし、捉えるべきではない段階にいますので、直接的な共感をスティーブンソン氏に持つことはありませんが、もう何十年か生きたあとに、そのような感慨をもって人生を振り返りつつ、残された人生をもうひと踏ん張り生きていこうと思えたら、よいのかなと思いました。

 

本来的には、英語の原書で読みたい小説であり、字幕なしに英語で鑑賞したい映画ではあります。いつか英語版でチャレンジしてみたい。

filmarks.com

 

 

 

 

【本】アメリカの大学の裏側―「世界最高水準」は危機にあるのか?―

2019年2冊目。

父・竹内洋氏、娘・アキロバーツ氏親子での共著です。

 

「世界のトップ」をひた走るアメリカの大学で「異変」が起きている!「日本の大学の『お手本』となってきたアメリカの大学を取り巻く問題や対処法は、アメリカ独自のものだけでなく、日本の大学もすでに直面していたり、近い将来考えなければならない共通の課題が少なくない(本書より)

アメリカの現役大学教授がその実態を徹底リポート!

そこから考察した日本の大学論も収録。

すべての大学関係者、受験・留学希望者、保護者必読! (表紙より)

 

と、いう前置きから始まる大学論。娘でありアメリカの大学教授であるアキ・ロバーツ氏が全6章のうちの5章を担当し、アメリカの大学事情をリポート。これを受けて父・竹内洋氏が最後の1章で日本の大学論を語ります。

 

本書はアキ・ロバーツ氏のエッセイ調の文章となっており、時折、彼女の置かれた境遇に立脚するポジショントークと読める箇所もありますが、アメリカの大学ランキングの状況、教授職の置かれている環境、進学事情などが、平易な文体で収録されており、比較的手に取りやすい良書かと思います。

 

ざっと要約すると、

  • アメリカの約3,000の大学で授業を担当する教授のうち、雇用環境が安定せず、賃金もギリギリ生活が成り立つ程度の非常勤教授の比率が近年高まっており、60%を超える状況にある
  • この背景には、「A:行政の教育政策への財政投資の縮小」、「B:各大学の一部の役職者(学長)・スポーツコーチ等への高額な報酬」、「C:学生の志向の変化に過度に対応した不要なほどの職員数の増大」、「D:一部の特権教授(終身雇用が保障されているテニュア職教授と言い、著者もこのテニュア職に当たる)の保身的な大学運営」等が挙げられる(※著者はABCについては批判的論調だが、Dについては中立のように見受けられた)
  • アメリカの大学の授業料は世界一高いと言われ、4年制大学の平均で年約320万、アイビーリーグと言われる伝統ある名門校になると年約500万に及ぶ(日本は国公立で年54万、私立でも年86万)
  • しかし、アメリカでは大学就学費用は政府が補助してくれるものであって、個々の家庭の責任ではないとの社会通念があり、実際8割を超える学生がファイナンシャルエイドと呼ばれる奨学金を受けながら大学に通学している(ただし無償のものだけではなく、有償のものも存在し、卒業者の3分の2はローンを抱えている)
  • アメリカの大学入試は、学力のみならず、「ホリスティック入試(Holistic)」という学生の個性や人物の全体像を見る考え方を重要視している
  • 背景として、アメリカの大学は建前上は「偉大な平等推進装置」であり、社会的弱者に対して積極的に大学進学機会を与えるべきとの考えが社会に浸透していることが挙げられる。実際に、マイノリティの人種の入学を優先するアファーマティブ・アクションも多くの大学で採用されているが、一方で、これが本当に社会的弱者の救済に繋がっているのか?との批判もある(裕福なマイノリティ(黒人等)のみが恩恵を受けている)。また、上述の「ホリスティック入試(Holistic)」は、裕福な社会階層に有利に働くとの批判も存在する
  • 日本では明治以来、学力のみで大学進学が決まってきたこともあり、これの反動で、知識詰め込み教育の批判者は、人物重視の入試(AO入試等)に賛同する傾向があるが、アメリカで見られるように、「人物重視の入試ほど、格差の再生産につながりかねない」という視点は軽視されがちである

 

なかなか示唆に富むお話が収録されていました。

 

個人的には、2020年代に控える日本の教育改革では、「知識・技能」だけではなく、「主体性・多様性・協働性」などの人物重視の視点「も」取り入れた入試へと、大学入試が舵を切られていくことが決まっていますが、これは、「アメリカで見られるように、格差の再生産につながる可能性を持った改革である」との認識は、社会で共有するべきだと感じました。

 

もっとも、その上でも、いままでの100%平等主義的な教育を脱却し、一定の格差の再生産は許容(※)したうえで、これからの日本を担うトップ・オブ・トップを育てるための入試を一部においては取り入れていく改革なのである、との立場に立ってこの教育改革を推進するべきという立場はあり得ますし、僕自身は基本的にはこの立場です。

※0か1かではなく、あくまで一定程度ということを言っています

 

これらについて、文部科学省はどのように考えているのか、気になります。

【本】消えゆく限界大学―私立大学定員割れの構造―

2019年1冊目。

 

消えゆく「限界大学」:私立大学定員割れの構造

消えゆく「限界大学」:私立大学定員割れの構造

 

 

ニッポンの大学は多すぎるのか?どんな大学が生き残れるのか?大学の消長に私たちは何を見るのか?本書はなくなる大学・残る大学の分析を通じて、人びとの手に届くようになった「大学」とは何だったのかを問う(オックスフォード大学教授・苅谷剛彦)。

 

弱小私大が淘汰されるメカニズムを、統計データを駆使しながら明快に示した画期的書(白水社

 

との書評がブックカバーに あるが、この書評の通り、ゴシップ調になりがちな大学論を、事実をもとに冷静に分析した良書でした。

 

  • 90年代前半期の18歳人口のピーク×高卒就職環境の悪化に伴い、大学進学者が急増。この間、旧短大からの大学転換が相次ぎ、大学数が急増した(※1986年~2015年の 20年間で新設された大学270校のうち190校(7割強)は旧短大を母体とする)
  • しかし実態は、短大から大学への看板の付け替えに過ぎず、学部学科プロダクト、施設・設備、教育・研究内容などは温存された場合が多かった。総じて「短大以上・大学未満」と呼ばざるを得ないのが実態であった
  • 結果、現状、日本の私立大学の半数近くが定員割れの状況にあるが、その7割以上は旧短大を母体とする大学となっている
  • 一方、この間、トップのリーダーシップのもとで目覚ましい発展を遂げた中小大学も存在する。本書では武蔵野大学松本大学昭和女子大学などが取り上げられている
  • 武蔵野大学では、旧態依然の教授会の現状維持論を、理事会主導で乗り越え、入学定員2000名を超える総合大学へと成長した
  • 松本大学では、入学前教育の段階で「上級生・同級生とのつながり」を創る仕掛けや、「専門カウンセラーの個別面談」を取り入れた
  • 昭和女子大学では、2000年に就任した坂東眞理子氏のもと、創立者一族による理事会運営から脱却し、学外理事に実業界の要職者を招へい。改革を早めた

 

ざっとまとめるとこんなところでしょうか。

1学年1,000人以上の定員を持つ一定規模以上の大学が、募集環境上有利なことは間違いないが、小規模であってもトップのリーダーシップのもと、市場を向いた、中長期目線の改革を推進することによって、生き残ることができるものだと感じました。